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田村隆一(詩人)
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 稲村ヶ崎をのぞむレストラン。
 突然の驟雨が窓を激しく叩く。
「失恋した男がレストランで独り淋しく、椅子にもたれかかっている後ろ姿ってとこか」
 詩人はすこぶる上機嫌だった。
 計ったように15分ごとに1杯のスコッチをストレートで注文する。
「日本には文化のストックが欠如してるんだよ。教育がよくないんだ。とくに小・中学の基礎教育がね。それさえしっかりしていれば、先生なんて教えなくても、子供たちは自分でやるようになるんだよ」
 R・ダールの『チョコレート工場の秘密』の訳者の顔も持つ。
「児童書は、母親にも読んでもらいたいね。おふくろの味というものを今の子供たちに教えてもらいたい。進歩的ブンカ人大キラーィ。僕は保守的野蛮人でいいよ。詩なんていうのはバカウタだよ」
 頃合いを計ったように奥さんから電話。スコッチは10杯を超えた。
「おれはまだ生きている。酔っているのは、おれの経験なのだ」
 セーターの下はパジャマだった。ああ、田村隆一、いまだ健在。
 
写真・文 高橋和幸

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