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片岡仁左衛門(歌舞伎役者)
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 人は、一生の仕事を見つけ、やり抜き通すことに至福を覚える。だとすると、2歳で舞台に立ち、92歳まで歌舞伎一筋にきたこの人を何と見るだろうか。
 緑内障が進み、すでに視力はない。移動はすべて家人に頼る。
 京都・唾峨野の自宅玄関−−
 なるほどと納得させられたのは、シャッター音によって、微妙な動きをされたからだ。そのどれもが、確かにきまっている。役者の宿命とも言うべき“第三者の眼”を意識されたに違いない。それは、取りも直さず90年の身についた性(さが)なのだろう。
「菅原道真公をやらせて戴きました時は、自分も神様、天神様ですね。私自身も信仰しておりますので、そりゃあ感激しましたよ。いやいや、恐れ多いことですが、ちょっとは、はあ、ちょっとはですよ、神様の役どころに近づけたかなあと思っております」
 人間国宝のこの衒いのなさが、よけいに大きさ重さを感じさせる。
写真・文 高橋和幸

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