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犬養孝(文学博士・万葉学者)
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 万葉集ゆかりの地を歩く旅を昭和26年から始め、今も続く。故地1200ヵ所は、もちろんくまなく歩いたという。
「万葉集というのは、ハツラツとした古代の魂の記録なのです。その地に立って、時代背景を想いながら歌を詠む。すると歌が土の中から直に伝わってきます。歌ごころをつかむためには、無駄と思えるようなことをしなくては駄目なのです」
 現在72刷の超ベストセラーであり、万葉集の入門書ともいうべき氏の著書『万葉の旅』上・中・下巻は、そんな氏の健脚と情熱から生まれた。当初、出版元は故地すべてを自分の足で歩き、その上で解説を著したいという氏の提案に二の足を踏んだ。膨大な時間と経費を考えれば、当然といえば当然かもしれない。だが、氏はそれならと自費で廻ったのだ。万葉集にかける情熱と探究心は86歳の現在も変わらない。藤原宮跡にある氏の自筆の歌碑の前に立って、持統天皇の歌を詠みあげる。おおらかでゆったりとした犬養節。まるで古代にタイムスリップしたかのよう。背中には、ロマンが漂っていた。
写真・文 高橋和幸

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